婚活の現場では、「相手を思いやる人ほどなぜか先に進めない」という逆説が起きがちである。
仕事でも友人関係でも「いい人」であることは評価されるが、こと恋愛・結婚の初期フェーズでは、それが交渉力の弱さや境界線の曖昧さとして作用し、関係の形成を遅らせることがある。
データと心理学研究を手がかりに、「少しいい人をやめる」=自分を大切にする境界線の引き方を考えてみよう。
レッツゴー!
いま、何が起きているのか(日本の最新データ)

日本では未婚者の交際状況がこの10年で大きく変化している。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(2021年)によれば、18~34歳の未婚者で「交際相手がいない」人は男性72.2%、女性64.2%である。交際を望まない未婚者も男性33.5%、女性34.1%にのぼる。一方、「恋人・婚約者あり」は男性21.1%、女性27.8%にとどまる。これは2000年代前半のピークから低下傾向が続いている。
さらに、25~34歳の未婚者に「独身でいる理由」を尋ねると、男女ともに最も多いのは「適当な相手にめぐりあわない」である。次いで「自由や気楽さを失いたくない」「まだ必要性を感じない」が続き、「異性とうまく付き合えないから」の比率は2005年以降上昇している。これらは出会いの希少性や対人スキルの負荷が高まっていることを示唆する。
「相手を思う人」がつまずく構造
「相手を優先するほどうまくいかない」背景には、心理学でいう自己の沈黙(Self-Silencing)や無制限のコミュニオン(Unmitigated Communion)が関係する。前者は「関係を守るために自分の気持ちや欲求を抑え込む傾向」、後者は「他者の世話や配慮に自分を過度に同一化し、自己のケアが後回しになる特性」を指す。研究では、これらの傾向が高いほど、対等な相互作用が崩れやすく、関係満足や健康に負の影響が出やすいことが示されている。
婚活初期では、自己開示・主張・境界線の提示が情報の非対称性を埋め、関係の「設計図」を共有する鍵となる。
しかし「いい人」はこれらを後回しにし、相手の期待を満たすことを先に置きがちである。結果として、
- デート候補日・予算・関係のペースを相手任せにする
- 嫌だった出来事を「まあいいか」で飲み込む
- 「また誘ってくださいね」など曖昧な合図しか出さない
——こうした小さな選択が積み重なると、相手には「あなたの軸」が見えにくくなり、関係の主語が常に相手になってしまう。結果、「良い人だけど、恋人としては決め手に欠ける」という評価に収束しやすいのである。
少し難しい内容だが、要するに「自分<相手」の状態にあるのだ。
データで見る「いい人の落とし穴」仮説
仮に「自分の希望・条件・価値観を言語化できないまま出会いを重ねる」ケースを考えてみる。初回~3回目デートでの離脱要因は以下のように可視化できる。
場面 | よくある挙動 | 相手の内心評価(仮説) | 代替戦略 |
---|---|---|---|
デート調整 | 「いつでも大丈夫です」 | 主体性が見えない。負担が自分に寄る | 「平日19時以降/土曜午前が助かる」など選択肢提示 |
会計 | 相手の出方待ち | 価値観が不明瞭 | 「初回は割り勘/次回交互」など方針宣言 |
違和感対応 | 愛想笑いで流す | 境界が曖昧=関係設計が難しい | 短文フィードバック(例:「その話題は少し苦手です」) |
関係の見通し | 相手の温度に同調 | 温度差が読めない | 進行意志の言語化(例:「3回会って合うなら真剣交際へ」) |
「少しいい人をやめる」ための境界線設計
境界線(ボーダー)は、相手を拒絶する柵ではなく、自分と相手の領域を見える化する線である。以下の3層で設計すると運用しやすい。
価値観ボード(事前言語化)
- 時間観:平日夜は19~21時まで。週末は午前中優先。
- お金観:初回は割り勘、2回目以降は交互。大きな出費(テーマパーク等)は事前相談。
- 関係観:3回会って価値観合致→真剣交際提案。排他性は合意後。
- コミュニケーション:既読スパンは24時間以内。即レスは不要。
ミニマム・アサーティブ(短文主張テンプレ)
以下はコピーして使えるテンプレートである。
- 予定調整:「平日だと水・金の19時以降が都合良い。土曜なら午前が助かります」
- 費用感:「初回は割り勘にしませんか。次回は私が出します」
- 話題制限:「その話題は少し苦手なので別の話がしたいです」
- 進行意志:「3回ほど会って合いそうなら、真剣に考えたいです」
- 合わない時:「素敵な時間でしたが、恋人に発展するイメージがしませんでした」
レッドライン(越えたら終了)
- 暴言・見下し・侮辱
- 無断ドタキャン・遅刻の反復
- 金銭・プライバシーへの過度な踏み込み
これらは「距離を置く」か「終了」を即断する。早期撤退は敗北ではないです。逃げるが勝ち。
30日で変える行動プラン

Week 1:見える化
- 価値観ボードをメモに書く(時間・お金・関係・コミュニケーション)。
- プロフィール文(マッチングアプリ等)に行動レベルの一文を追加(例:「平日は水金の夜に都内でお茶できます」)。
Week 2:対話の型練習
- 友人相手に会話の練習。
- メッセージは選択肢提示+希望(例:「水or金、19時or20時、場所は渋谷or有楽町でいかがでしょうか」)。
Week 3:小さなNoを出す
- 「その日は都合が合わず難しいです」「その話題は苦手です」を短文で送る。
- 同時に代替案を添える(「代わりに土曜午前は空いていますか?」)。
Week 4:進行の明確化
- 3回目デートで「良ければ真剣交際を考えたいです」意志を伝える。
- 迷ったらレッドライン表に照らし、撤退の勇気を行使しましょう。
少しだけ「いい人」をやめる言い換え集
予定丸投げされがち
✕「いつでも大丈夫です」→ ○「水金の19~21時なら行けますよ。土曜午前も可能です。」
長電話・深夜LINEで消耗
✕「つい合わせてしまう」→ ○「22時以降は休むので返信は翌日にさせてください」
価値観の違いに沈黙
✕「笑って流す」→ ○「私は○○が良いです。」
「自分を大切にする」ことは相手を大切にする近道である

自己の沈黙や無制限のコミュニオンは、短期的には相手の機嫌を保てますが、中長期的には不満・誤解・役割固定を生んでしまう。小さな主張と明確な境界線は、むしろ相手にとって「私の取り扱い説明書」となり、安心が生まれる。
結果的に、相手選びが早まり、ミスマッチの離脱も早まる。これは統計的に出会いが希少になっている現在において、機会費用を下げる合理的戦略である。
セルフチェック(7項目)
以下に当てはまる数を数える(3つ以上で要注意)。
- 予定・お金・関係の進行を相手任せにしがち
- 違和感があっても指摘せず飲み込む
- 相手の機嫌と自分の価値を連動させやすい
- 断ると嫌われると思っている
- 返信速度を相手に合わせすぎて疲れる
- 「良い人だけど決め手に欠ける」と言われた経験が複数回ある
- 終わらせるべき関係を先延ばしにする
あなたの「3つの宣言」を作る
以下をそのままプロフィールや初回メッセージに入れる。
①時間:水金の夜か土曜午前にお茶から。終電前解散が基本
②費用:初回は割り勘/次回は交互
③進行:3回会って合えば真剣交際へ
ここまで書ける人は少ない。だからこそ、あなたが希少な「主語のある人」として浮かび上がる。
よくある反論への回答
Q1. 「自己主張すると相手が離れないか」
A. 離れる相手は、そもそも価値観やリズムが合っていない。早く知れて良かったという解釈が合理的である。
Q2. 「私は自己犠牲ではなく思いやりのつもり」
A. 思いやりは大切である。ただし、思いやり=自己消耗ではない。自分の余白を確保した上で差し出すからこそ、関係は続く。
Q3. 「境界線は冷たい印象にならないか」
A. 伝え方が肝心である。短文+代替案+感謝の三点セットなら、むしろ誠実さが伝わる。
まとめ
婚活で最も必要なのは、相手を思う優しさと同じ重さの自己への配慮である。主語は私、線は私が引く。
この姿勢が、決して強引ではない「健全なリード」を生み、「なぜ自分だけが損な役回りなのか」という自己否定から解放してくれる。相手のことも大事、しかし自分のことはもっと大事——その順序が、結婚までの道のりを確かなものにするはずである。
自分が幸せでなければ、人を幸せにすることは難しいと思う。
参考文献・データ出典
- 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(2021)」結果の概要(交際状況・交際を望まない割合等)。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
- nippon.com「性交経験なし、交際望まないが増加」解説記事。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
- こども家庭庁「結婚に関する現状と課題について」(25~34歳の独身理由・傾向)。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
- D. Jack ほか「Silencing the Self」関連資料(Self-Silencing Scaleの概念)。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
- Helgeson ほか「Unmitigated Communion」に関する研究(対人関係上の問題との関連)。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
※本記事は上記データ・研究の知見をベースに、婚活の意思決定に役立つ実践手順へ再構成したものである。数値は主に2021年調査の値であり、今後の更新により変動する可能性がある。
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