年上のまちこさん

私は32歳のとき、病院で働いている最中に思いがけない再会を果たした。
受付に用があって立ち寄った際、私の名前を呼ぶ女性が現れた。ん?どなた?と困惑していると、女性は変わらず私に話しかけてくる。記憶をたどると、高校時代のひとつ上の先輩だと気づいた。
体育祭で同じ組になり、少しだけ話したことがあったものの、名前までは覚えていなかった。
しかし、話をしているうちに「そうだ、まちこさんだ」と思い出した。
まちこさんからの紹介

その日は、彼女の子どもの受診だったため、挨拶程度で終わった。
しかし、数日後に再び病院を訪れたまちこさんから「話がある」と言われ、休憩時間に会うことになった。
「話って何ですか?」と尋ねると、「結婚した?彼女いるの?」と聞かれた。私は当時、結婚もしていなかったし、彼女もいなかったので正直に答えると、「紹介したい人がいるの!」と突然の申し出。
驚きはしたものの、30歳を過ぎてから出会いが減っていた私にとっては、ありがたい話だった。
まちこさんとLINEを交換し、やり取りが始まった。
紹介してくれる女性は5歳年下のエステティシャンらしい。しばらくして「三人で飲みに行こう」と誘われたので、平日の仕事終わりではあったが行くことにした。
仕事が長引き、待ち合わせ時間ギリギリに到着すると、そこにはスラっとした、おしとやかで美しい女性がいた。
名前はなおこさん。タイプだ!心の中でそう思った。緊張したせいか、何を話したかよく覚えていないが、当たり障りのない会話をしたはずだ。
なおこさんとの再会

数日後、まちこさんから「家に遊びに来てよ」と誘われた。5人家族とのことだったので、手土産にケーキを持参した。
まちこさんには男の子が3人おり、とても賑やかだった。旦那さんは出張で1か月ほど不在だという。
高校時代の話をしたり、子どもたちと遊んでいると、突然玄関のチャイムが鳴った。まちこさんが対応すると、親しげに話す女性の声がする。まさかとは思ったが、なおこさんだった。ひとつ余っていたケーキが無駄にならずに済んだ。
その日は夕食をご馳走になり、楽しく過ごした。
そして翌日、まちこさんからLINEが届いた。「明日空いてる?」「なおこさんとラウンジで毛穴の洗浄をするんだけど、肌が乾燥するって言ってたから誘ってみたの」と。
毛穴洗浄は初めてだったが、体験するくらいならいいかと思い、行くことにした。
毛穴の洗浄??

指定されたラウンジに入ると、美容院とは違う雰囲気で、大きな美容機器が置いてあった。
よくわからないままベッドに横になり、顔にオイルのようなものを塗り機械で刺激を加えられる。施術後、なおこさんから「どうでしたか?肌の調子どうです?」とLINEが来た。その後も何度かやり取りをし、ある日仕事終わりに会うことになった。
待ち合わせ場所について相談すると、「出雲大社の近くに知り合いの家があるからそこで会おう」と言われた。
少し不思議に思ったが、まちこさんも一緒なら大丈夫だろうと納得。
指定された家に到着すると、60代くらいの女性が迎え入れた。どういうことかと戸惑いながらもお茶をいただくと、部屋にはこないだのラウンジで見た美容機器が置いてあった。
さらに、壁には「販売実績最優秀賞」と書かれた賞状が飾られている。
そこでようやく全てを理解した。
私にこの美容機器を売りたいのだ。
毛穴洗浄の真相

説明を聞くと、「40年前からある北海道の会社が製造している」「とても良い機器だが、知り合いにしか販売できない」とのこと。
これはまさしくマルチ商法だ。
私は断ったが、彼女たちは引き下がらない。面倒になり帰る準備をすると、なおこさんが「少しドライブに行きましょう」と言い出した。
帰れるならそれでいいやと思い、10分ほどドライブしたが、彼女は「この仕事を本気でしたい」と言っていた。
「いい商品なら一般販売されていないんですか?」と聞くと、「この良さが分かる人にしか売りたくない」との返事。これはダメだと思い、すぐに戻ってなおこさんを降ろし、そのまま帰宅した。
その後、まちこさんから「また肌の調子を聞かせてね」とLINEが来たが、もう関わりたくないと思い、既読スルーした。以来、二人からの連絡はなかった。
トラウマ

それからしばらくして、私は仕事に没頭しながら日々を過ごしていた。
婚活も少しずつ再開しようと考えていたが、あの件がトラウマになり、紹介には慎重になっていた。
そして数年後、再びまちこさんが病院に来院した。偶然にも私は受付におり、彼女と目が合った瞬間、逃げたい気持ちになった。しかし、彼女は以前と変わらず親しげに話しかけてきた。
「久しぶり!元気?」と明るく声をかけるまちこさん。
その後の会話で、彼女は美容機器の販売業に就いたこと、なおこさんも同じ仕事をしていることを知った。
私は内心、あの夜のことを思い出しながら、やはり関わるべきではなかったと改めて感じた。
まちこさんは「また連絡するね!」と言い残し、去っていったが、私は再び既読スルーを決め込んだ。
人生には思いがけない再会があるが、すべてが良い方向に進むわけではない。この出来事を教訓に、私はより慎重に人間関係を築いていくことを決意したのだった。
最後に
それから数年後、私は幸運にも良い縁に恵まれ、結婚することができた。
振り返れば、まちこさんとの再会は警戒心を持つ大切さを教えてくれた出来事だったのかもしれない。
人生には様々な出会いがあるが、そのすべてが自分にとってプラスになるとは限らないのだ。
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